人権デューディリジェンス
当社では人権マネジメントの強化を目的として、外部の人権専門家を招き、国内外の拠点を対象に2016年より人権デューディリジェンスを行っています。このデューディリジェンスは「INPEXグループ人権方針」に沿って実施され、2024年末時点で、当社のすべての操業現場3カ国8拠点とノンオペレータープロジェクトおよび金額的に影響の大きいサプライヤーをカバーしています。
2024年には、石油天然ガス事業のみならず再生可能エネルギー事業も評価の対象に加え、外部有識者の協力の下、当社バリューチェーンにおける人権リスクの再評価を実施しています。
バリューチェーン上のステークホルダーとして自社の従業員、先住民の方々、移民労働者、サプライヤー、コントラクター、地域社会の人々も対象としています。
当社がオペレーターとして操業するイクシスプロジェクトでは、国際的な環境社会ガイドラインであるIFC Performance Standardsを採用し、人権デューディリジェンスを含む、社会および環境リスクの管理を行っています。イクシスの操業については、定期的なレポートや監査を通じ、このIFC 基準のコンプライアンスをモニターしています。この基準には、児童労働、強制労働、労働条件や苦情対応などをカバーするIFC Performance Standards 2の「労働者および労働条件の準拠状況」が含まれます。
デスクトップ調査
2024年には、再生可能エネルギー事業も調査の対象に含め、SASBやOECDを始めとする調査機関の文献、国際規範や各種ガイドライン、業界に関する文献調査を行い、人権課題を抽出しました。ビジネス内のリスクを特定するにあたっては、自社の従業員、女性、子ども、先住民の方々、移民労働者、サプライヤー/コントラクターの従業員、地域社会の人々などを対象としました。
人権リスク評価の実施
デスクトップ調査で特定した人権課題について優先的に対応が必要な課題(特に顕著な人権課題)を特定するために、人権リスク評価を実施しました。
人権リスク評価の実施方法
人権リスク評価は、デスクトップ調査において特定した人権課題について、影響深刻度と発生可能性の2軸により実施しました。評価実施にあたっては、外部コンサルタントの知見も活用しました。
影響深刻度の評価
以下の3つの項目により、人権課題に関連する事案の影響深刻度を評価しました。
- 負の影響の重大性(人権侵害が命に与える影響度合い)
- 負の影響の及ぶ範囲(影響を受ける人数)
- 救済の困難度(補償による救済可能性)
発生可能性の評価
発生可能性については、国別・業種別のリスク(外部データによるリスクによる評価)、人権課題に関連する事案の発生状況も踏まえた発生頻度、管理体制の整備状況(脆弱性)により評価しました。
アンケート調査の実施
人権課題ごとの管理体制の状況および事案の発生状況に関するアンケート調査を実施し、管理体制の状況(脆弱性)および事案の発生状況を人権リスク評価に利用しました。
調査対象
アンケート調査は、当社が事業を行っている以下の対象先に対し実施しました。
- 全てのオペレータープロジェクト
- 全てのノンオペレータープロジェクト
- 金額的影響の大きいサプライヤー
管理体制の脆弱性に関する評価
調査対象先ごとに当社が識別した人権課題を対処するための管理体制の整備状況に関する回答を入手し、管理体制の脆弱性の評価を実施しました。評価結果については、人権リスク評価にあたり発生可能性の評価における考慮要素として利用しました。
実際の事案に関する評価
調査対象先ごとに当社が識別した人権課題に関連して、人権侵害が発生している事象の有無を確認し、事象が発生している場合にはその内容および対応状況を踏まえ、人権リスク評価にあたり、影響深刻度と発生可能性の評価における考慮要素としました。
2024年に特定された顕著な人権課題
人権リスク評価の結果、当社が優先して取り組むべき人権課題として特定されたものは以下のとおりです。
石油・天然ガス事業の人権課題 |
再生可能エネルギー事業の人権課題 |
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また、差別の禁止と法の下の平等、労働時間、人身売買、同一労働同一賃金、女性の権利、プライバシーなど、その他の人権リスク分野についても、リスクの特定・評価プロセスを通じて検討しましたが、当社事業の特徴や地理的特性、既に実施されているリスクマネジメント等を踏まえ、当社の顕著な人権リスクとはみなされませんでした。
人権リスクへの対応方針および人権課題別の対応・軽減策の検討
人権リスクへの対応方針
上記の人権リスク評価結果を受けて、当社として以下の取組みを実施します。
- 人権課題に対する管理体制と、各課題の発生可能性と影響深刻度を確認し、評価結果を各拠点の担当者にフィードバックした上で、人権方針の周知徹底や人権教育の提供などの今後の対応について協議
- 人権リスクとその対応策について適切に対応するために、人権リスクの定期的な見直し
- 3年ごとのアンケート調査による人権リスク評価の実施
人権課題別の対応策と是正措置の検討
リスク評価の結果特定した特に顕著な人権課題について、リスクの重要度や各調査対象先における管理体制の整備状況を踏まえ、優先的に対応する人権課題を特定し、対応策を検討しました。
(1) 顕在的なリスクが確認された人権課題に対する対応策
当年度の調査により、プラントの火災を原因とする死亡事故など、人命にかかわる事案を始め、複数の事案が発生していることを確認しました。発生した事案に関しては、プロジェクト単位で既に対応策を講じ、予防に努めているとの回答を得ていますが、当社としては今後、継続的なモニタリングを実施する予定です。
(2) 潜在的なリスクのある人権課題に対する対応策
潜在的なリスクが考えられる人権課題については、リスクの重要度や各調査対象先における管理体制の整備状況を踏まえ、防止策の強化に取組みます。なお、2024年は、人権に関する是正計画が必要な操業拠点数は0であったため、是正措置対応の件数も0件となっています。
当社は人権リスクを低減するため、以下の取組みを実施しています。
職場における人権尊重
職場環境における顕著な人権課題として、人権侵害への非加担・コンプライアンス・社会保障と公正な競争、差別の禁止と法の下の平等、児童労働、強制労働、労働安全衛生、労働時間(休憩・休日の権利)、適切な労働環境(水へのアクセス含む)、賃金(十分な生活水準を享受する権利)、結社の自由・団体交渉権、責任ある安全管理などが挙げられます。これらに対し当社は以下の取組みを行っています。
また、通報窓口については、「各種お問い合わせ窓口の設置」をご覧ください。
役員・従業員の人権意識向上のためのトレーニング
さまざまなステークホルダーの人権を考慮しつつ日々の業務に取り組む重要性の認識を深めるために、2017年度に人権に関する研修を全役員および従業員を対象に実施し、2018年度以降は新入社員と中途社員を対象に毎年実施しています。研修では誠実さ、尊敬、公正さをもって他者に接することの重要性を説明しています。また、人権の尊重は各人事研修でも強調され、内部通報実務に関する研修やハラスメント対策研修も毎年実施しています。詳細は「データ集> Governance (ガバナンス)」をご覧ください。
労働環境の整備
当社は健全な労働環境づくりに努めることを「行動規範」で定め、労働時間や賃金の面からもこれを遵守しています。標準労働時間については、国内外の全拠点において週48時間以下であること、時間外労働についても本人の合意の下で行われ、時間外労働分の賃金が適切に支払われていることを確認しています。また、賃金についても、全ての従業員の賃金が各拠点の生活賃金を上回る基準で支給されており、男女賃金差異についても定期的にモニタリングをしています。こうした取組みに加え、当社の従業員を対象にアンケート調査を毎年実施し、従業員へハラスメントといった人権侵害が行われていないか、適切な労働環境のモニタリングをしています。
労使間の対話
INPEX 労働組合と締結している労働協約において、組合が労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を有することを定め、労働問題(労働安全、労働環境、報酬、労働時間、研修・人材開発、ストレスマネジメント、均等な雇用機会、等)に加え、会社の抱える課題や将来の見通しなど様々な問題について労使で意見交換する場を定期的に設け、健全な労使関係の維持と発展に努めています。
特に事業経営上の都合による従業員の大量解雇や従業員に著しい影響を与える業務変更の際には、事前に適切な通知期間を設け、会社及び組合は必ず事前に通知を行い、平和的かつ円満な解決に向け協議することを労働協約にて定めています。
なお、2008年の労働組合結成後、これまで苦情処理対応は発生していません。
社外のステークホルダー(地域社会とサプライヤー)
当社は当社の事業にかかわるバリューチェーン上の全てのステークホルダーの人権に配慮しています。ステークホルダーごとの人権リスクと取組みについては下記のとおりです。また、社内窓口の詳細については「ステークホルダーからの意見への対応 」をご覧ください。
サプライチェーン
調達慣行の徹底では、結社の自由、団体交渉、強制労働、児童労働、職場における差別、労働条件(安全衛生、賃金、労働時間、水へのアクセスなど)、地域社会への影響、労働者の権利等の人権リスクが考えられます。
それに対する取組みとして英国現代奴隷法・豪州現代奴隷法に基づいたステートメントを毎年公表、サプライヤー行動規範やガイドラインの制定、取引先に対してのESGに関する勉強会を実施しています。
2023年にはサプライヤーの選定プロセスの一環として、現代奴隷のリスクアセスメント自己評価を導入し、人権の尊重を含む「サプライヤー行動規範ガイドライン」を策定し、サプライヤーフォーラムで説明を行いました。また2024年には、同フォーラムで、サプライヤー宛て人権研修も実施しています。
その他の取組みは「サプライチェーンマネジメント」をご覧ください。
地域社会
社会保障と公正な競争、差別の禁止と法の下の平等、先住民族・地域住民の権利、責任ある安全管理などが地域社会における人権リスクになります。プロジェクトを実施する前の影響評価においては、地域社会に与える負の影響を回避するために環境・社会アセスメントの実施計画に基づき、適切なタイミングでアセスメントチームを編成の上、以下の項目を評価しています。
- 住民移転:非自発的住民移転を伴うプロジェクトの住民に対する移転・補償に関する説明、移転前の同意、移転後の生活基盤の回復、正当な補償、移転する住民のうち、特に社会的弱者への考慮
- 生活・生計:プロジェクトによる住民の生活への影響
- 文化遺産:考古学的・文化的・宗教的・歴史的遺産、史跡などへの影響
- 景観:景観への影響
- 少数民族・先住民族: 少数民族・先住民族の権利の侵害、文化・生活様式に対する影響
影響評価においてはステークホルダーとの対話を行い、その結果を事業計画に反映し、問い合わせや苦情対応を含む、継続的な地域社会との対話機会を提供しています。
現在開発段階中のインドネシアのアバディLNGプロジェクトでは、現在実施中の環境・社会影響評価において、国際的な環境社会ガイドラインであるIFC Performance Standardsの人権に関する要求事項についても以下のプロセスで検討・評価しています。
工程 |
人権に関する取組み |
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評価項目の選定 |
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現況調査 |
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影響評価 |
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環境管理計画・モニタリング計画策定 |
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VPSHR(安全と人権に関する自主原則)の要求事項を含め、人権を含めた社会関係リスクについては、社内規程に則り確認・管理しています。
インドネシアでは民間の警備会社を利用しており、定期的にKPIのモニタリングと評価を実施しています。2025年には、VPSHR の精神と人権尊重のための各規定の遵守を強化することを目的に、現地警察や国軍、警備会社及び当社の保安要員に向けた「セキュリティと人権」に関する啓発プログラムを実施し、プログラム実施後には参加者による好事例などを交えた意見交換も行いました。
また、Social Investment Strategyの5分野((1)地元の経済力強化、(2)教育、(3)公衆衛生、(4)環境、(5)戦略的社会貢献)に重点を置いて、地域コミュニティや関係機関と協力し、さまざまな取組みを計画・実行しています。このうち、公衆衛生や清潔な水へのアクセスに関する主な活動は以下のとおりです。
時期 |
人権に関する取組み |
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2020 |
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2021 |
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2022 |
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2023 |
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2024 |
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新規事業における人権リスクの評価
当社の新たな事業として2023年9月にオーストラリアのPotentia Energy社(旧EGPA)の株式を50%取得した際には、人権リスクの管理体制を確認しました。また、2024年実施のアンケート調査では、ジョイント・ベンチャーも含め人権リスクの調査の対象を拡大しました。