生物多様性の保全
生物多様性に関する「リスクと機会」の特定
「TNFD提言への持続的な取組み」をご覧ください。
保護区への影響の回避、低減、代償
2022年12月に策定した「生物多様性保全に係る基本的な考え方及びコミットメント」では、事業の実施除外エリア(UNESCO世界自然遺産の区域内)において事業を実施しないことをコミットしています。2024年12月末時点で、当社オペレータープロジェクトは、当社の定める実施除外エリアに立地しないことを確認しています。
また、当社では、2019年度より、「保護地域に関する世界データベース(WDPA1)」の保護区情報やIUCN レッドリストカテゴリーに該当する動植物種の情報を地理情報システム(GIS)に取りまとめ、以下の目的のために、情報を毎年更新しています。
- 保護区内における当社オペレータープロジェクトの操業の有無の確認
- 新規プロジェクトにおける保護区への影響の初期スクリーニング
- 既存プロジェクトにおける生物多様性保全活動の計画・立案
1UNEP(国連環境計画)とIUCN(国際自然保護連合)が作成している保護区情報のデータベース
ネットポジティブアプローチの推進
WBCSDが2021年に公表した実務者向けガイダンス “WBCSD practitioner’s guide: what does nature-positive mean for business?” を活用し、当社の自然に関する取組みの現状把握と、今後必要なアクションの特定を実施しています。その結果、WBCSDのガイダンスに準じて、当社が特に対応できているポイントとしては、生物多様性や水に関するコミットメントの策定・開示、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づく生物多様性への影響の回避、低減、代償といった取組みであることが特定されました。今後は、バリューチェーンを考慮した自然関連の影響と依存を考慮し、ネットポジティブに寄与する取組みを実行していきます。
生物多様性保全活動の推進
事業活動による生物多様性への影響の種類や程度は、各事業の規模、内容、及び立地環境等により異なることから、事業ごとに求められる生物多様性保全の取組みも異なります。そのため、事業の実施にあたっては、当該エリアにおける生物多様性の重要性や事業が生物多様性に対し、もたらすリスクや影響を評価し、特に重要性が高い環境脆弱域(保護区、貴重種の重要な生息地、森林、マングローブ、サンゴ礁、湿地や干潟など)については、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づき、事業がもたらすリスク・影響の回避、低減、代償を計画し、生物多様性保全に取組んでいます。
当社の国内事業及び海外事業では、長年にわたり、生物多様性保全に資する活動を実施していますが、今後は、2022年12月に策定・公表した生物多様性保全に係る基本的な考え方とコミットメントに基づき、全社的な生物多様性保全活動をより一層推進していきます。また、2024年にはコミットメントの遵守、推進を一層図ることを目的に、全社的に測定可能な定量目標として、「2025年以降に開始するオペレーション事業体において、森林伐採ネットゼロを達成する」及び「計画した生物多様性保全活動の実施率100%」を策定しています。2024年における生物多様性保全活動の実施率は90%となりました。
また、当社は、事業活動が生物多様性に与える影響を適切に管理するため、オペレータープロジェクトの全てのサイトにおいて、生物多様性評価を実施しています。その結果を基に、リスクの高い拠点を特定し、当社がオペレータープロジェクトを実施しているサイトのうち、生物多様性保全に重要な地域に隣接しているサイトは、7サイト(92,319.08ha)あることが確認されました。これらの高リスクサイトにおいては、管理計画を策定し、影響の最小化や生息地の保全、モニタリングの強化等に取り組んでいます。
|
サイト数 |
面積(ha) |
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オペレータープロジェクトを実施しているサイト |
46 |
92,416.44 |
生物多様性に関する影響評価を実施しているサイト |
46 |
92,416.44 |
生物多様性に関する影響評価を実施しているサイトのうち、生物多様性の重要な地域に隣接しているサイト |
7 |
92,319.08 |
生物多様性に関する影響評価を実施し、生物多様性の重要な地域に隣接するサイトのうち、生物多様性管理計画等が策定済みのサイト |
7 |
92,319.08 |
海外における生物多様性保全の取組み
イクシスLNGプロジェクトが立地するダーウィン湾の沿岸部には、マングローブ林が形成され、魚類の繁殖エリアやウミガメの採餌エリアとなっています。この豊かな生物多様性を保全するため、ダーウィン湾における排水水質、海水水質、マングローブの生育状況、自然植生などの包括的なモニタリングを操業開始後も継続して実施しています。また、北部準州によるジュゴンの生息調査に資金援助するなど、事業周辺の生物多様性保全に貢献する取組みを実施しています。
Cardno 社によるレポート(98ページ、 イクシスLNGプロジェクト近隣の環境モニタリングプログラムの概要を参照)
インドネシアのアバディLNGプロジェクトでは、環境社会影響評価制度(AMDAL)の一環として、2021年には、衛星画像解析を用いて、プロジェクトサイト周辺海域におけるサンゴ礁の分布状況を調査しました。また、2023年11月には、プロジェクトサイト前面海域においてダイビングによるサンゴ礁調査を実施しました。これらの調査結果を用いた影響評価を実施し、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づきサンゴ礁への影響低減策を今後策定・実行する予定です。


国内における生物多様性保全の取組み
国内事業場周辺における環境に関する地域特性の把握
国内事業では、事業場周辺の環境に関する地域特性(河川、漁場・養殖場、森林、自然環境保全地域、文化財、天然記念物・絶滅危惧種の生息地など)の把握を目的とした机上調査を2021年度に実施し、調査結果を地理情報システム(GIS)を用いて取り纏めました。これにより、事業場周辺の生態系の把握だけでなく、新規事業の計画段階において、サイト周辺の環境脆弱域の把握にも活用しています。また、本調査結果は、当社がTNFDのLEAPアプローチに沿って、各事業場が依存または影響を及ぼす自然資本の特定および評価を行うためにも活用しています。 詳細は、「TNFD関連への取組み」をご覧ください。

「東京湾UMIプロジェクト」の取組み
2024年より、東京湾の豊かな自然環境の再生・維持を目指した環境保全活動、「東京湾UMIプロジェクト」に参画しました。このプロジェクトは、東京湾にアマモ場を再生させることでの取組みで生物多様性の確保を図り、その活動を通して、海への理解や関心を高めることを目指した取組みで、国土交通省と企業、NPOが官民連携し活動を行っています。
2024年は夏に選別したアマモの種に砂と腐葉土を混ぜ込み、それを「不織布パック(微生物の力で自然に還る、生分解性の布袋)」に詰めて海辺へ移動し、専門のダイバーに渡して海底に敷く作業を行いました。イベントには当社の社員及びその家族も参加しましたが小さな子どもから大人まで、イベントを運営しているNPO法人海辺つくり研究会によるアマモ種まきのレクチャーに熱心に耳を傾け、アマモの種の選別や不織布パック詰めなどを楽しみながら体験しました。今回まいた種は、海中で芽吹き、来年春に花を咲かせる予定です。
「キツネ平どんぐりの森」での取組み
長岡鉱場に隣接する新潟県長岡市不動沢では、2010年度から新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環で「キツネ平どんぐりの森プロジェクト」を展開しています。2019年度からは、この森づくり活動に加え、キツネ平どんぐりの森における生物多様性調査を実施し、森を利用し、生息している種について調査しています。2019年度、2022年度の調査の結果、カモシカやキツネ等の多様な生物が確認されています。また、2024年には、従来の調査に加え、環境DNA分析手法を利用した追加的な調査も実施しました。
「キツネ平どんぐりの森」における森づくり活動
- 2010年より、新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環で「キツネ平どんぐりの森プロジェクト」を展開。
- 2019年には、これまでの森づくり活動に加えて、トライアルとして秋季に生物多様性調査を実施。
- 2019年秋季調査で一定の成果が得られたことから、2022年度には、通年調査を実施。
- 2023年には、森づくり活動参加者に対し、生物多様性調査結果について報告会を実施。
- 2024年には、これまでの森づくり活動に加えて、環境DNA分析を実施。


・森づくり活動
年に2回(春季・秋季)、地域住民の方々と一緒に森林整備、植樹活動、子ども向けの自然観察会を開催しています。(2020年以降新型コロナ感染症の影響で活動を休止、2024年より活動を再開しています。)
2024年には、継続的な森づくり活動に加え、キツネ平どんぐりの森に生息する生き物及びそれらの生態について、子ども向けの環境教育を実施しました。
・2024年生物多様性調査(環境DNA分析)
2024年4月から10月の約7か月間にわたり、2022年の調査と同じ位置にセンサーカメラ8台を設置し、継続的、かつ、より詳細に当該地における生物多様性の現況を把握しました。さらに、キツネ平どんぐりの森内に簡易水場を新設し、簡易水場に訪れる生物を調査するため、同様にセンサーカメラによる定点観察を実施しました。また、簡易水場では環境DNA分析を用いた調査も行い、センサーカメラによる調査結果と比較することで、環境DNA分析技術の利用可能性を検討しました。
簡易水場を設置した結果、簡易水場設置当初は確認される種が少なかったものの、時間の経過とともに生物に認識されるようになり、水浴びや水飲み場として活用されるようになりました。これにより、センサーカメラのみを用いた従来の調査では確認できなかったオオタカやアカショウビンなどの新たな種が確認されました。簡易水場の設置がキツネ平どんぐりの森における生物相の詳細な把握に寄与していると考えられます。また、簡易水場から採取した水について環境DNA分析を実施した結果、頻繁に水場を訪れていることがセンサーカメラで確認されていた鳥類や哺乳類の多くが、環境DNA分析でも検出されました。これにより、従来のセンサーカメラ等の手法に加え、環境DNA分析を実施することで、種の特定においてより確度の高い情報を得られると考えられます。さらに、センサーカメラでは検出が難しいコウモリ類、爬虫類、両生類の検出にも成功しました。これらの情報は、今後キツネ平どんぐりの森で追加調査を行う際の調査方法の選定に役立つと考えられます。



