Sustainability Report 2022

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Sustainability Report 2022

TCFD提言への持続的な取組み

気候変動関連のガバナンス体制

当社は、気候変動対応に関し、取締役会による監督体制の維持、関与の拡大を図っています。具体的には、気候変動対応の基本方針の決定を取締役会での決議事項としています。このほか、2022年には、ネットゼロ5分野を含む気候変動対応関連の議案について、全15回開催した取締役会のうち14回で議論され、6件の決議事項と16件の審議・報告事項がありました。当社は、2021年1月、2050年自社排出ネットゼロ(Scope1+2)目標を柱とする気候変動対応目標を定めました。また、2022年2月に「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」を発表し、2050年ネットゼロに向けての道筋としてネットゼロ5分野の各事業を加速度的に拡大していくことを打ち出しました。これに伴い「気候変動対応の基本方針」1を2022年3月に改定し対外開示しました。また、同基本方針に基づく気候変動対応の推進状況を具体的に紹介する「INPEXの取組み」1を原則として毎年1回アップデートし、対外開示しています。

当社の気候変動対応に関するガバナンス体制は、国内外で高い評価を得ており、2022年には、TCFDが発行する「TCFD2022 Status Report」2にてケーススタディとして掲載されています。

1「気候変動対応の基本方針」及び「INPEX の取組み」

2「TCFD2022 Status Report」

気候変動対応と役員報酬との連動

当社の代表取締役を始め全ての取締役(社外取締役を除く)の報酬においては、2022年に報酬制度を改定し、株式報酬のKPIとして、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」の管理指標となっている温室効果ガス排出原単位を採用しています。また、担当役員においては、気候変動対応目標、リスク管理や情報開示などを含め気候変動対応の推進に関し毎年定性目標を設定しており、その達成度の評価が報酬に反映されます。

気候変動関連のガバナンス体制図

役割

1気候変動対応の基本方針の決定、気候変動対応の監督

2気候変動関連リスク及び機会の評価の決定気候変動対応に係る重要な目標の決定

3サステナビリティ推進委員会の諮問機関で30名ほどの組織横断的なメンバーで構成される気候変動関連のリスクや機会の評価を実施

4環境安全方針に基づく温室効果ガス排出量の集計・分析・報告

気候変動関連リスク及び機会の評価・管理

当社は、気候変動関連リスク及び機会の評価・管理を、原則として年次サイクルで実施しています。全社的な気候変動対応の推進は、経営企画本部経営企画ユニット内の気候変動対応推進グループが担当しています。

気候変動関連リスクに関しては、各部門を代表する30名ほどのメンバーで 構成される「気候変動対応推進ワーキンググループ(WG)」が評価を実施して、予防及び低減措置案を策定しています。予防及び低減措置案は、当社が取り組むべき検討課題としてサステナビリティ推進委員会で審議された上で、年度計画に反映されます。

なお、リスク評価のプロセスは、国際的なリスク管理基準であるISO31000(2009)(図A)の手順に従っています。外部要因・内部要因をアップデートし、当社の状況をWGメンバーで共有した上で、リスクを特定し、その原因、予防措置、低減措置、及び残存リスクを分析(図B)し、その残存リスクを当社で作成した「TCFD 提言対応リスク評価マトリクス」(図C)を使用して評価しています。

当社の気候変動関連リスク評価の開示については、TCFDコンソーシアムが発表した「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0事例集」3においても、好事例として紹介されています。

3 気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(事例集)

図A: ISO31000の手順

図B:リスク分析の手順

図C:TCFD 提言対応リスク評価マトリクス

気候変動関連機会については、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」に基づいて、水素・CCUS 事業開発本部や再生可能エネルギー・新分野事業本部などを中心として全社的に取り組んでいきます。

また、「気候変動対応の基本方針」に基づく「INPEXの取組み」において、ネットゼロ5分野、上流事業のクリーン化と天然ガスシフトに関する取組みを取りまとめています。この文書はサステナビリティ推進委員会で審議され、社長決裁を経た上で経営会議・取締役会に報告する仕組みとなっています(図D)。

図D: 気候変動関連リスク及び機会の評価・管理のプロセス

2023年度の気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況

移行リスク

リスク区分

リスクの評価対象

リスク発生時期見込

対策の状況

政策・法規制
(Scope1排出量関連)

  • カーボンプライス制度の予想より早い導入・強化によりコストが増加するリスク
  • メタン排出管理に対する規制が強化されるリスク

短期

中期

  • カーボンプライス政策動向など、外部環境の継続的なモニタリング
  • インターナルカーボンプライスを適用した経済性評価をベースケースとして実施。インターナルカーボンプライスは、IEA STEPSのEU価格又は各国のカーボンプライス見通しを基に継続的に見直し
  • 排出量削減の取り組みとして、プロジェクト操業におけるクリーンエネルギーの導入
  • メタン排出原単位0.1%を維持するための管理
  • 関連するステークホルダーとのエンゲージメント

技術及び市場
(石油ガス需要・価格の低下)

  • 再生可能エネルギー・EV・電池のコスト低下、あるいは市場の低炭素エネルギー選好により、石油ガスの需要低減または価格低下が進行するリスク
  • 顧客が排出原単位の低いガス/LNGを嗜好するリスク

中期

長期

  • 技術・市場動向のモニタリング
  • IEA WEOのAnnounced Pledges Scenario(APS)を主要シナリオとして経済性評価を実施。Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)シナリオにも留意
  • コスト削減の取り組み
  • ガスシフト及びCCSの推進

レピュテーション
(Scope1排出量関連)

Scope1排出量がステークホルダーから懸念されるリスク

短期

  • 2050年ネットゼロ、2030年排出量原単位30%以上低減目標の設定
  • 2030年頃にCO2圧入量年間250万トン以上達成を目標とし、技術開発・事業化を推進
  • メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%)で維持
  • 2030年までに通常操業時ゼロフレア

レピュテーション
(Scope3排出量関連)

Scope3排出量が注目され石油・ガス企業のイメージが悪化するリスク

短期

中期

  • Scope3排出量の低減に向けたステークホルダーとのエンゲージメント
  • 天然ガスの開発促進・普及拡大
  • カーボンニュートラルLNGの販売

資金調達

投資家や金融機関から情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク

短期

中期

  • TCFD提言に沿った情報開示の推進
  • 投資家や金融機関との対話・エンゲージメントの実施

物理的リスク

リスク区分

リスクの評価対象

リスク発生時期見込

対策の状況

急性

極端な気象現象が、操業施設に悪影響を及ぼすリスク

短期

中期

  • 定期的に物理的リスク評価を実施

慢性

長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇が操業施設に悪影響を及ぼすリスク

中期

長期

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

2023年度の気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込及び対策の状況

資源の効率に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

生産プロセスでのエネルギー効率改善

短期

  • オーストラリア・イクシスLNGプロジェクトにおける生産時の燃料ガス・フレア削減イニシアチブ、ガス漏洩検知・修理(LDAR)プログラム等を通じた低炭素化操業を推進

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

エネルギー源に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用

中期

  • ノルウェー・スノーレ油田で洋上風力発電による海上生産施設へのクリーン電力の供給
  • ウェスティング油田開発計画で陸上水力発電による給電の可能性を追求

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

製品及びサービスに関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

CCUS の推進

中期

  • PTTEP社および日揮との間で覚書に基づき、タイでのCCS協業にかかる協議を開始
  • PETROS社との共同協力協定を通じたマレーシアでのCCS事業可能性の調査を開始
  • 伊藤忠、三菱重工、大成建設との船舶輸送を通じた大規模広域CCSバリューチェーン事業に関する共同スタディを通じた共同事業化の検討
  • インドネシア・タングーLNGプロジェクトでのCCS事業開発検討
  • 南阿賀鉱場でのCO2EOR実証試験において、2023年度中に圧入試験を実施し、次のフェーズへの移行を検討
  • イクシスLNGプロジェクトCCS導入に向けた評価作業等の取組み推進
  • 国内外における新規案件の検討・推進

水素事業の展開

長期

  • AGL Energy社との共同覚書に基づき、オーストラリアでの⽔素の輸出及び⽔素を利⽤したメタネーションに関する調査を実施中
  • 三菱造船とのアンモニアバンカリング船の共同コンセプトスタディを通じたアンモニア燃料供給輸送への取組み
  • 新潟県柏崎市での水素・アンモニア製造実証事業について、地上設備の敷地造成工事とCO2圧入・生産・観測井掘削に向け、資機材調達を実施中、2025年中に運転開始予定
  • アブダビにおけるクリーンアンモニア事業への参画機会を追求
  • 国内外における新規案件の検討・推進

再生可能エネルギー事業の拡大

中期

風力

  • 国内洋上風事業の開発及び長崎県五島沖洋上風力の建設推進
  • 欧州風力プロジェクトの安定操業と事業拡大
  • 東南アジア、豪州、米州での事業機会の創出


地熱
  • インドネシアムアララボ地熱発電プロジェクトの追加開発
  • 秋田県小安地熱プロジェクトの建設推進
  • インドネシア、日本、その他地域での地熱の探鉱推進

カーボンリサイクルの推進

長期

  • メタネーション技術開発事業として2025年の合成メタン生産を目指し、プラントを建設
  • 人工光合成の研究開発を推進

新分野事業の開拓

長期

  • ドローン活用、メタン直接分解、CO2回収、蓄電池関連事業などの検討

カーボンニュートラル商品の販売促進

短期

  • カーボンニュートラル商品販売の更なる拡充、カーボンクレジットポートフォリオの拡充

森林保全の推進

中期

  • オーストラリア・ニュージーランド銀⾏およびカンタス航空との豪州での カーボンファーミングおよびバイオマス燃料事業協⼒に係る協業を開始

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

市場に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

エネルギー供給の多様化

中期

  • LNGバンカリング・受入基地・小口配給・発電等中下流事業への投資を通じたアジアのガスバリューチェーンの確立

よりクリーンな天然ガスの開発

中期

  • オーストラリア・イクシスLNGプロジェクトでの生産能力引上げ、拡張も視野に入れた検討推進。東南アジアでの事業機会の追及
  • インドネシアのアバディLNGプロジェクトでのCCUSの導⼊等を含め事業推進

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

物理的リスク評価プロセスの整備

2018年に物理的リスクについての評価プロセスを検討し、ロードマップを設定しました。2019年度から主要オペレーター案件及びノンオペレーター案件について物理的リスク評価を順次行ってまいりました。2022年は2019年に物理的リスク評価を行っている当社の主要施設の一つである直江津LNG基地において、前提としていたシナリオが更新されたことを受け、リスク評価を実行しました。こちらにおいても、他の案件と同様にIPCC 第5次評価報告書のRCP8.5シナリオにおける21世紀半ばの平均気温上昇、海面上昇などの指標を利用しています。

これらの評価を踏まえて慢性リスクに関しては、イクシスを始め沿岸部に立地する主要施設は、海水位上昇などを織り込んで設計しているため、洪水リスクは低いと評価しています。また、今後の気温上昇により運転効率の低下などの影響が考えられますが、適宜施設の改善などを行っているため、2030年までに大きな損害が出ないと評価しています。

急性リスクに関しては、主要オペレーター案件で適切な計画、操業、訓練、外部情報活用などにより、台風やサイクロンなどの自然災害に十分な備えを持って取り組んでいます。加えて、当社の主要施設は、自然災害の財物保険の手配により、急性リスクによる財務的損失の軽減を図っています。また、国内での自然災害については、国レベルでインフラ整備などの適応が進められる中、当社でも自然災害の対応として、パイプラインのリスク評価、対応策の検討などを実施しました。これらの検討結果を踏まえて、自然災害リスクの高い部分において引替え工事を実施しました。

尚、HSEマネジメントシステム文書であるHAZID(Hazard Identification)ガイドラインの改定を行い、HAZIDワークショップを行う際のガイドワークの一つに気候変動による影響を新たに加えており、当社の事業活動のライフサイクルを通したリスク管理アプローチに物理的リスク評価を組み込んでいます。今後も物理的リスクに関しては、組織横断的なチームで定期的に評価の実施、適切な開示を進めていくと同時に分析手法を多様化させ、より多角的な評価を進めていきます。

物理的リスク評価のロードマップ

TCFD提言に沿った開示内容及び開示箇所

TCFD提言の概要

当社の開示内容

ガバナンス

気候変動関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する

1

気候変動関連のリスク及び機会についての、取締役会による監督体制を説明する

2

気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する

戦略

気候変動関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重要な場合は、開示する

1

組織が識別した、短期・中期・長期の気候変動関連のリスク及び機会を説明する

2

気候変動関連のリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する

3

2°C以下シナリオを含む、さまざまな気候変動関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンス(対応力 )について説明する

リスク管理

気候変動関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する

1

組織が気候変動関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する

2

組織が気候変動関連リスクを管理するプロセスを説明する

3

組織が気候変動関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する

指標と目標

気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する

1

組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候変動関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する

2

Scope1、Scope2及び当てはまる場合はScope3の温室効果ガス排出量と、関連リスクについて開示する

3

組織が気候変動関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する

TCFDの「指標と目標、移行計画に関する新ガイダンス」に沿った7指標の開示内容及び開示箇所